オープンウェイトは何が開いていないのか — 定義・ライセンス条項・動かす金額の実測

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オープンウェイトは何が開いていないのか — 定義・ライセンス条項・動かす金額の実測

この記事について

モデルを選ぶとき「オープンソースだから安心」「オープンだから自前で動かせる」という前提で話が進むことがある。この2つは、どちらも条項と数字を見ると成立しないことが多い。

先に位置を書いておく。実務で選択肢に上がる規模の公開モデルで、オープンソースの定義を全部満たしているものは事実上無い。 だから「オープンソースかどうかで選ぶ」という判定は最初から機能しない。代わりに見るのは、どの条項が付いているか・学習データが開いているか・実際に動かすといくらかの3点になる。

以下はその3点を確認するための資料。意見ではなく、ライセンス本文・定義文書・実勢価格で確認できる範囲に絞った。

よくある前提実際
重みが公開されている=オープンソースオープンソースの定義は学習データの情報も要求する。重みだけでは満たさない
オープンソースなので用途の制限はない利用者数の上限や用途制限が書かれているものがある
オープンなら学習データが分かる事業規模の提供元は、ライセンスの緩さに関わらずほぼ全員が非開示
公開されたから自分で動かせる上位モデルは1台に載らない。借りるほうがAPIより高い
手元で動くものと発表の点数は同じモデル名前が同じでも別のモデルであることがある

確認日は2026年8月15日。金額は断りのない限り欧州中央銀行公表の2026年8月14日レート(1ドル=159.01円、1ユーロ=183.93円)で換算した。

定義:オープンソースAIが要求している3点

オープンソースという語の定義を管理しているのは Open Source Initiative(OSI)で、AI向けの定義(Open Source AI Definition 1.0)は3つの要素を要求している。

要素要求内容
Data Information熟練者が実質的に同等のシステムを構築できる程度に詳細な、学習データについての情報。データの出所・範囲・特性、入手と選別の方法、ラベリングと処理の手順、公開データの一覧と入手元、第三者データの一覧と取得情報
Code学習と実行に使った完全なソースコード。データをどう処理・フィルタし、どう学習したかの全仕様
Parameters重みなどのモデルパラメータ。途中のチェックポイントと最終的なオプティマイザ状態を含む
要点は Data Information の水準。 「使ったデータの雰囲気を書く」ではなく同等品を作れる程度と定義されている。公開できないデータについても、その存在と性質の記述を求めている。この条件で見ると、重みを配っただけのモデルは定義上オープンソースではない。

「オープンウェイト」と「オープンソース」は別の語であり、前者は後者の略称ではない。

ライセンス:条項に何が書いてあるか

配布条件は実際にライセンス本文を読むと分かる。代表的な2つが対照的だった。

モデルライセンス実際に書かれている制限
Llama 系(Meta)独自ライセンス第2条:直前の暦月の月間アクティブユーザーが7億を超える場合、Meta にライセンスを請求する必要がある。Meta は単独の裁量で許諾も拒否もできる。加えて利用規定(Acceptable Use Policy)による用途制限
gpt-oss 系(OpenAI)Apache 2.0条項としての利用者数制限・用途制限なし。オープンソースライセンスとして認められているもの

Llama ライセンスについては、OSI が2025年2月の分析でオープンソース定義を満たさないと結論している。利用の自由(freedom 0)を制限すること、特定の利用者を差別すること、利用分野を制限することが理由に挙げられている。Free Software Foundation も2025年1月に Llama 3.1 のライセンスを不自由なソフトウェアライセンスに分類した。

つまり「オープンソース」という語の使用可否は、条項を読めば自分で判定できる。7億という数値は事実上ほとんどの事業者に当たらないが、当たらないことと、制限が無いことは違う。制限がある時点で定義からは外れる。

学習データ:ライセンスが緩くても、そこだけは開かない

ここが一番はっきり分かれた。

gpt-oss-120b は Apache 2.0 で配布されていて、条項の緩さでは Llama 系より上にある。パラメータは総数1,170億・アクティブ51億のMixture-of-Experts構成で、MXFP4量子化により80GBのGPU1枚に載る設計。

それでもモデルカードに学習データセットの開示は無い。

重みの配布ライセンスの緩さ学習データの開示
Llama 系あり制限ありなし
gpt-oss 系ありApache 2.0なし
各社の閉じたモデルなしなし

条項は緩められる。重みも配れる。データだけ、事業規模の提供元は誰も出さない。 ライセンスの寛容さと、学習データの透明性は連動していない。

開示している側は実在する。ただし規模が違う

「誰も出していない」ではない。学習データまで公開しているモデルは実際にある。

プロジェクト提供元開示範囲規模
Olmo 3(2025年11月)Allen Institute for AI学習データ(Dolma 3・約9.3兆トークン)、学習過程、途中のチェックポイントまで公開。推論の途中経過をデータと学習判断まで遡れる7B / 32B
PythiaEleutherAI学習の順序まで辿れる設計。研究用の観測装置として構築最大12B
BLOOM多国籍の公的資金プロジェクト構成を開示176B(2022年)

Olmo 3-Instruct は同規模の公開重みモデル(Qwen 2.5・Gemma 3・Llama 3.1)を上回り、Qwen 3 の同規模帯と競える水準にあるとされる。規模帯の中では強い。ただし規模帯そのものが違う。

全面開示しているのは、非営利研究機関・公的資金のコンソーシアム・学術目的の団体に集中している。技術的な限界で止まっているのではなく、事業上の露出が無いから開けていると読むほうが実態に近い。開示は能力の問題ではなく、責任の問題として分布している。

動かす金額:上位モデルは1台に載らない

「公開されたから自分で動かせる」を数字で確認する。671B級のMixture-of-Expertsモデルを例にとる。

項目数値
重みのサイズ(FP8)約671GB
KVキャッシュ・活性化を含む実用下限約700GB
H100 80GB × 8枚の合計640GB → 足りない
H200 141GB × 8枚の合計1,128GB → 足りる
H100 のオンデマンド単価(2026年半ばの実勢)1GPU時あたり2〜3ドル(約320〜480円
8枚構成ノードの時間単価約16〜24ドル(約2,500〜3,800円
24時間×1か月 借り続けた場合約11,500〜17,500ドル(約183万〜278万円

スループットも見ておく。8×H100・vLLM・4bit量子化の公表ベンチマークで、単一リクエストなら毎秒33トークン程度、100並列で合計毎秒620トークン程度。高い数字が出るのは高並列時だけで、1人で使う限りその速度は出ない。

671B級のMoEについては、どの稼働率でもホスティングAPIのほうが自前のGPU費用より安いという比較結果が複数の試算で出ている。損益分岐点が高いところにあるのではなく、そもそも交差しないという報告になっている。

結果として起きるのは「公開モデルを、他社のAPI経由で使う」という形になる。停止も値上げもあり得るし、データは提供元を通る。依存先が入れ替わるだけで、閉じたモデルを使う構造と変わらない。

名前が同じで中身が違う

手元で動く版と、発表の点数を出した版が別物であるケースがある。

代表例が DeepSeek-R1 の蒸留版。ローカル実行の文脈で「R1を動かした」と言われるものの多くは、こちら。

DeepSeek-R1(本体)DeepSeek-R1-Distill-Qwen-7B
実体671B級のMoEQwen2.5-7B のファインチューニング
学習方法強化学習の段階を含む教師ありのみ。強化学習の段階なし
学習データR1 が生成した推論サンプル約80万件
重みのライセンスMIT
手元で動くか実質不可動く

名前に「R1」が入っているのは蒸留元がR1であるという意味であって、R1そのものではない。ベースは Qwen2.5 なので、系譜としては別のモデル族に属する。

ベンチマークの数字を出しているのは本体のほう。 手元で動く版の性能は、その数字とは無関係に評価する必要がある。

開示義務は始まっている。ただし差はほとんど出ていない

2026年8月時点で状況が動いている部分がある。EU AI Act の第53条(1)(d)が、汎用AIモデルの提供者に学習データの公開要約を義務づけた。

日付内容
2025年7月24日欧州委員会がテンプレートと解説を公表
2025年8月2日要約の公開義務が適用開始
2026年8月2日AI Office による適合性確認と是正措置が可能に。違反時の制裁金は最大1,500万ユーロ(約28億円)または全世界年間売上高の3%のいずれか高いほう
2027年8月2日適用開始前にリリースされたモデルの公開期限

重要なのは、オープンソースライセンスで提供している事業者も免除されないこと。「配ったから責任は移った」は、この義務については通らない。

ただし、提出されたものを見ると差はほとんど出ていない。 テンプレートの欄を埋めたのは Google・Meta・Microsoft・OpenAI と、Hugging Face・SpeakLeash・Swiss AI といったオープンソース系。Anthropic・Mistral・xAI は欄を使わず記述文で提出した。

問題は中身で、ほぼ全員が同じ欄にチェックを入れている。「公開データセット」を使ったと答え、「10兆トークン以上」と報告する。そこから先の区別がつかない。実質的な差が出たのは、利用者データを学習に使ったか、商用ライセンスをどう扱ったか、マルチモーダル対応の有無くらいだった。トリニティ・カレッジ・ダブリンとMozilla Foundationの調査では、記入済みのものでも品質基準を満たさない例が多いと報告されている。

義務は動き出した。ただし「開示された」と「分かるようになった」の間には、まだ距離がある。

判定するときに見る3つ

呼び方で判断できないので、確認できるものだけで見る。

  • ライセンス本文に利用者数・用途の制限があるか。 あればオープンソースではない。7億という上限が自分に当たるかどうかとは別の問題として、条項を確認する
  • 学習データについて何か書いてあるか。 「何も書いていない」でも構わない。書いていないと分かることに意味がある。EUのテンプレートに沿った要約が出ていれば、そこを読む
  • 自分が動かせる版と、点数が出ている版は同じか。 パラメータ数・ベースモデル・学習方法を突き合わせる。名前だけでは判定できない

この3つはいずれも公開情報を読むだけで判定でき、判断の根拠を他人に説明できる。


参照した資料

自前運用のコストは、公表ベンチマークと複数の比較記事の実勢値をもとにした試算であり、契約条件・地域・時期で変動する。導入判断に使う場合は自分の稼働率で計算し直すこと。