AIに「講義」させるプロンプト設計 — 弱点講義機能で幻覚を抑え込むまで

AIに「講義」させるプロンプト設計 — 弱点講義機能で幻覚を抑え込むまで

この記事について

自作の学習ドリルに「苦手な問題をAIに講義させる」機能を足したときの、プロンプト設計の勘所をまとめる。

軸は一つだ。AIに解説させる場面で怖いのは「間違ったことをもっともらしく喋る」ことで、それを抑える鍵はプロンプトの言い回しではなく“何を渡すか”にあった。 正解の解説を全文渡し、学習者の成績データを渡し、AIには「渡したもの以外を勝手に足すな」と枠をはめる。個人開発で学習支援やQ&A系のLLM機能を作っている人向けに、実装して効いた設計判断を並べる。

試した構成: 自作の想起ドリル(ブラウザで動く問題演習ツール)+ LLMへの講義生成機能。「入れられる材料は全部入れて、判断はAIにやらせる」方針で組んだ。

何が問題だったか — 「解説して」だけだと、AIは平気で創作する

最初に浮かぶ実装は「この問題を解説して」とだけ投げるものだ。だがこれは危ない。LLMは手元に正解の根拠がないと、知識の隙間をそれっぽい創作で埋める。学習支援では、これが一番やってはいけない。間違った解説を自信満々で覚えさせたら、ツールが学習を破壊する側に回る。

かといって、AIを使わずに固定の解説文だけ出すなら、そもそも「講義」機能にする意味がない。学習者ごとの弱点に合わせて噛み砕く、という価値が消える。

だから狙いはこうなった。AIの「噛み砕く力」は使いたい。でも「創作する自由」は奪いたい。 この二つを両立させるのがプロンプト設計の仕事だった。

設計の柱その1 — 公式解説を全文渡して「解説外は補足と明示」と枠をはめる

幻覚対策というと、プロンプトで「嘘をつくな」と強く言うことだと思われがちだが、効いたのは逆だった。言い方で締めるより、材料で締める。正解の根拠を全部渡して、それ以外を足すときは正体を名乗らせる——この方向が一番効いた。

具体的には、問題の公式解説を丸ごとプロンプトに同梱する。700字だから、1000字だからと切り詰めない。切り詰めた分だけAIの手元から根拠が消え、そこを創作で埋められる余地が生まれる。実際、初期に解説を700字に切り詰めていたときは、元解説の8割を捨てていて、AIが足りない2割を勝手に補っていた。

その上で、渡した解説とAIの発言の関係にルールを敷く。

  • 渡した公式解説と矛盾することは言わない(矛盾禁止)
  • 解説に書いていないことを足すときは、「これは補足です」と明示する

こうすると、読み手は「どこまでが公式の正解で、どこからがAIの味付けか」を区別できる。創作を全面禁止にすると講義が痩せるので、創作を消すのではなく、創作にラベルを貼らせたわけだ。

設計の柱その2 — 学習者の成績データを渡して「その人の弱点」に寄せる

固定解説と差別化する価値は、学習者ごとの弱点に合わせられる点にある。だから講義生成のプロンプトには、その学習者の成績データ(どの分野を何回間違えているか等)を添付する

これで「一般的な解説」ではなく「あなたが繰り返し落としている観点はここ」という寄せ方ができる。材料として渡してさえいれば、どこを厚く説明するかの判断はAIに任せられる。ここも方針は同じで、判断材料は全部渡して、判断そのものはAIにやらせる

設計の柱その3 — 「読者は元資料を開いていない」前提で冒頭に対象を再掲する

見落としやすいのがこれだ。作っている側は問題文を眼前に置いているが、講義を読む学習者は、その問題ページを閉じた状態で結果だけ見ていることが多い

なので出力の冒頭に、今から何について講義するのか(対象の問題・論点)の再掲を必須にした。「解説だけがいきなり始まる」出力は、文脈を失った読み手には宙に浮く。プロンプト側で「まず対象を一言で再提示してから講義に入れ」と型を決めておく。

設計の柱その4 — 一括は3件まで。10件でワーキングメモリが溢れた

「まとめて弱点を全部講義して」とやりたくなるが、ここは実測で止めた。一度に10件講義させたら、読む人間側のワーキングメモリが溢れた。出力は正しくても、受け取る側が処理しきれず、結局どれも身につかない。

上限を一括3件までに絞った。AIの出力能力ではなく、人間の受け取り能力がボトルネックだったという話だ。ここは「AIに任せる」の対象外で、UI側で機械的にキャップした。

設計判断どう決めたか効いた理由
公式解説を全文同梱切り詰めをやめた創作で埋める余地を消す
成績データを添付材料として全部渡す弱点に寄せた講義になる
冒頭に対象を再掲出力の型で強制元資料を閉じた読者でも迷わない
一括は3件まで実測(10件で溢れた)人間の処理能力が上限

やってみてわかったこと

学習支援でLLMを使うときの幻覚対策は、「嘘をつくな」と強く言うプロンプト芸ではなく、“根拠を全部手渡して、足したものには名札を付けさせる”という材料設計で効いた。言い回しで締めようとするほど、AIは締めた隙間を創作で埋める。渡す材料をケチった分だけ、創作の余地を自分で作っていた。

もう一つの学びは、上限を決める基準がAI側ではなく人間側にあったことだ。10件を正しく講義できても、受け取る人間が溢れれば価値はゼロになる。「入れられるものは全部入れてAIに判断させる」と「人間が飲み込める量に機械的にキャップする」は矛盾しない。判断はAIに、容量制限は人間に合わせる。この線の引き方が、講義機能を使い物にした一番の分かれ目だった。

更新履歴

  • 2026-07-08: 初稿